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Client Alert- 役員の損害賠償責任限定:2022年8月1日施行オフィサーの責任を限定する定款規定を認めるデラウェア州一般会社法改正を契機として
Oct 16, 2023- FisherBroyles News
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Client Alert – 役員の損害賠償責任限定:2022年8月1日施行オフィサーの責任を限定する定款規定を認めるデラウェア州一般会社法改正を契機として[1]
2022年8月1日に改正デラウェア州一般会社法(「デラウェア州会社法」)が施行され、新たにオフィサー(Officer)ついても信認義務違反による賠償責任限定の定款規定を設けることが可能となった。オフィサーも会社及び株主に対して信認義務を負う[2]。しかし、従前は、取締役の責任限定のみが認められ、兼務の場合も含め、社長、CEO等のオフィサーとしての職務執行についての責任限定は、認められてこなかった。他方、取締役についても、非公開会社においては、信認義務違反に関する賠償責任を限定する定款規定の必要性への意識が概して希薄であったのではないかと思われる。関心の低さは、日系企業の米国子会社の場合もことならないように思われる。取締役・オフィサー(役員)の責任限定規定は、後知恵による責任追求を減らし、果敢な判断を促し、有能な人材の確保にもつながる。今回の改正は、取締役及びオフィサーの両方をカバーする責任限定規定を設ける定款改訂を検討する契機とすべきものである[3]。
デラウェア州会社法における、取締役の責任限定制度は、1986年から存在してきた。この制度は、1985年に、「ビジネスジャッジメントの原則」の存在にもかかわらず、公開会社の売却に関して注意義務違反による取締役の損害賠償義務を是認したデラウェア州最高裁判決[4]を契機とするものである。同制度は、定款においてその旨の規定を設ければ、取締役は、次の一定の例外の場合を除き、会社及び株主に対して信認義務違反による賠償責任を負わないとするものである。
(1) 忠実義務の違反
(2) 誠実に行われたものでない又は意図的不正若しくは悪意でおこなう法律違反が絡む作為又は不作為
(3) 自己株取得規制及び配当規制等の意図的又は過失による違反
(4) 個人的に不当な利益を得た取引に関するもの
このように、利益相反に関する忠実義務違反等が、例外とされている。しかし、これらは、徒らに経営上の判断を萎縮させるようなものではない。
既に述べたように、取締役とオフィサーは、いずれも会社及び株主対して信認義務を負う。にもかかわらず、取締役のみについて賠償責任限定を認めるのは、均衡を失するのではとの批判が以前からあった。そして、責任限定規定の存在によって取締役の責任を問える見込みのない株主が、代わりにオフィサーを訴える傾向が顕著になって、これが注目され、今回の改正につながった。
オフィサーの信認義務違反による損害賠償責任の限定には、以下の例外がある。
(A) 忠実義務の違反
(B) 誠実に行われたものでない又は意図的不正若しくは悪意でおこなう法律違反が絡む作為又は不作為
(C) 個人的に不当な利益を得た取引に関するもの
(D) 会社による又は会社の権利の主張を行うもの
取締役に関する例外の(1)、(2)、(4)に対応するものが上記(A)、(B)、(C)である。取締役に関する例外(3)に対応するものは、ない。但し、上記(D)は、取締役に関する例外にはない項目である。
今回追加されたオフィサーの責任限定制度については、注意点が二つある。一つは、「オフィサー」の範囲である。誰が取締役であるかについて通常疑義は生じない。他方、どのようなオフィサーを設けるかは会社によってことなり[5]、必ずしも全てのオフィサーがこの免責制度の対象になるわけではないという点である。デラウェア州会社法の規定によれば[6]、デラウェア州内における訴状送達が自動的に認められている「president, chief executive officer, chief operating officer, chief financial officer, chief legal officer, controller, treasurer or chief accounting officer」のいずれかの肩書きを有する者は、免責の対象となりうるオフィサーとされる。米国証券取引委員会へ最も高額な報酬を受けている執行役[7]として届出られている個人も同様である。そして、これら以外のオフィサーでも、デラウェア州内における訴状送達が可能となる一定の契約を会社と交わすことにより責任限定の対象にできるオフィサーとなりうる。
二つ目は、既に示唆したように、取締役の場合とことなり、会社自体の有する損害賠償請求権は、責任限定の除外事項とされている点である。そのため、会社自体の訴え又は株主代表訴訟による訴えで請求される責任のいずれも、責任限定の対象にできない。この株主代表訴訟に関する例外は、一見取締役に比し不利で均衡を失するようにも見える。
しかし、株主代表訴訟の提起には、まず、株主は、会社に会社としての訴訟を提起することを迫る努力をしたこと、又はそのような努力が無駄であることを裁判所に対して示す必要がある。そして、訴訟を提起するかどうかは、取締役会の自主性が相当程度尊重され、取締役会は訴えないという判断をするだろうということのみでは、努力が無駄であるという要件を満たさない。取締役会に訴訟を要求しない場合、原告株主は、各取締役について、(1)代表訴訟で問題とされている行為から個人的に重要な利益を得ているか、(2)当該代表訴訟おける主張に基づいた責任を自ら問われる可能性が相当程度あるか、(3)上記(1)又は(2)に該当する者から独立性を欠いているかを判断し、(1) − (3)のどれかに該当する者が取締役会の過半数を占めているときにだけ、訴訟の要求をおこなうことは無駄であろうとして免除される[8]。このように、株主による濫訴の弊害は多くの場合避けうる設計がなされている。また、株主代表訴訟を起こすには、当該株主は、問題となった取引の時から継続して株主でなければならないため[9]、一定の歯止めとなる。
一般に、上場会社の場合、役員の信認義務違反による損害賠償責任のリスクへの関心は高い。株主による耳目を集めるクラスアクションや株主代表訴訟があるなどして広く公衆の知るところとなることにもよる。それに較べると、非上場会社の場合には、伝統的にこのようなリスクは低いと一般的に考えられてきた。しかし、非上場会社であっても、株主が複数存在する例は多い。例えば、ジョイントベンチャーのための会社である。ファンド等が投資をしている上場前のベンチャー企業の場合には、当然のこととなる。また、海外親会社の株主が当該親会社に対し米国子会社に役員の注意義務違反の追求することをせまり、又は海外親会社役員がこれをおそれるなどして自ら株主権を行使し代表訴訟をおこなう可能性もある。つまり、信認義務のチェインリアクションがおこる可能性がある。現地採用の役員にとっては、派遣社員に比べ日本の親会社との信頼関係が揺らぐような場合が発生しやすく、漠然と不安を抱えることもありうる。これは、リクルーティングの阻害要因ともなる。つまり、非公開会社でも、その役員の信認義務違反による賠償責任の影は、無視することができないし、無視すべきではない。
会社によっては、非公開会社であっても、役員が作為・不作為に関する責任について訴えられ、又はその意図を伝えらるなどした場合については、一定の条件の下でその解決に要した賠償額その他の費用等を支払う定款、附属定款の規定があるだろう。役員が会社と二者間の契約を結んでいる場合もあるだろう。このような手当自体も極めて重要である。しかし、これがなされていても、定款による責任限定規定があれば、訴えの提起自体を避けうる場合が多くなり、会社の負担も減ることにつながるであろう。
もちろん、会社役員(D&O)賠償責任保険によってカバーされている場合もあろう。しかし、保険には、支払い限度額がある。免責金額、縮小支払割合の適用もありうる。さらに、保険契約が、訴訟の動機付けになってしまう場合もありうる。保険料の多寡にも影響を与えうる[10]。いずれにしても、訴える場合のハードルを高くし、まず損害賠償請求訴訟の動機を削いでおくことが賢明である。
非公開会社においては、責任限定の定款変更は、比較的簡単に行える。今回の改正を機に、取締役及びオフィサーの双方について、責任限定の規定を設けておくことが検討されてよい。
このアラートに関してご質問のある方は、
渡邊健樹 ([email protected])、
ジェームズ・ローゼンブルース ([email protected])
アーパリー・コラデン ([email protected])
まで、ご連絡ください。
[1] 本書は、米国法を日本語で解説するという性格上、正確性には限界があることをお断りします。また、本書は、リーガル・アドバイスでないこともお断りいたします。
[2] 取締役・オフィサーが直面する最近身近な信認義務違反問題として、データブリーチによるものあげられよう。もちろん、金銭的責任を問われるのは、信認義務違反による場合に限られない。役員は、独占禁止法違反、海外腐敗行為防止法違反、不法行為等を理由として責任を負う可能性があり、定款、附属定款、個別契約、D&O保険を組み合わせた対応の検討が必須となる。
[3] 公開会社における2023年プロクシーシーズンの結果によれば、オフィサーの免責規定については、概ね賛成の総会決議となっているようである。
[4] Smith v. Van Gorkom, 488 A.2d 858 (Del. 1985).
[5] DGCL § 142(a).
[6] DGCL § 102(b)(7) (last para.).
[7] Most highly compensated executive officers.
[8] United Food and Commercial Workers Union v. Zuckerberg, 262 A.3d 1034, 1059 (Del. 2021).
[9] Del. Ch. Ct. R. 23.1.
[10] 1986年に取締役の責任限定規定が設けられる契機となった上記Smith v. Van Gorkom判決が保険料の高騰を加速したことが示唆されている。See Lawrence A. Hamermesh et al., Optimizing the World’s Leading Corporate Law: A Twenty-Year Retrospective and Look Ahead, 77 Bus. Law. 321, 366 (2022).
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